イキウメふたり会『二人の高利貸しの21世紀』
《演劇》イキウメ ふたり会
タイトル: 『二人の高利貸しの21世紀』
作: 岡田利規
脚色: 前川知大
演出: イキウメ俳優部
■■出演
[Aチーム] 浜田信也 × 盛 隆二
[Bチーム] 岩本幸子 × 伊勢佳世
[Cチーム] 森下 創 × 窪田道聡
[Dチーム] 緒方健児 × 加茂杏子
■■スタッフ
照明デザイン:坂本明浩 照明操作:野口梨紗
舞台監督:渡邊亜沙子 美術協力:土岐研一
音楽協力:安東克人
イキウメ事務所:中島隆裕 吉田直美
■■日程
2010年2月16日〜28日
■■場所
明大前・キッドアイラック・アートホール
■■チケット購入
「役者をみたい!」という欲望は演劇ファンには必ずあるはずで、その望みをかなえてくれる貴重な公演。
今回はチェルフィッチュの岡田利規さんが10年程前、ちょうど世紀の変わり目に書いた『二人の高利貸しの21世紀』という戯曲を題材に、イキウメ俳優陣が二人ずつ4つのチームに分かれ、俳優たちが自ら演出も考えて作り上げた作品を競演するというプログラム。
ほんとうは全部みたいと思ったのだけど、お財布と相談して今回は1つだけ観ようと思って、前回の『見えざるモノの生き残り』で成長が著しかった窪田道聡さんといぶし銀の演技をする森下創さんが組んだCチームを選んだ。が、今日は特別にAチーム、Bチームの公演もみせて頂きました。ありがとうございました。
《感想文:役者でみる演劇》
いきなり核心的な感想を言いますが、今回はBチームの伊勢佳世さんがダントツによかったです。びっくりしました。伊勢さんはかわいいとかそういうことじゃなくて、純粋に俳優として素晴らしい演技でした。まず目で訴えかけてくる力がすごくて、目だけ観てても作品が理解できます。それに声も表情も豊かで、観ていてぐぐっと引き込まれました。これぐらい演じられるならば、もう主役に抜擢してもいいんじゃないか。伊勢さんを中心にした作品を書いてみても面白い、そんな作品も今後作れると作家に思わせるぐらいの熱演でした。
また窪田道聡さんも力が安定してきたので、大きな役目を任せてもいいのではないかという手応えがありました。イケメンだし(笑)。いままで浜田信也さんというエースが務めねばならなかった役を窪田さんができるようになったことで、浜田さんにもっと思い切ったことをやらせるなんてことも可能でしょう。楽しみです。
そのエースの浜田信也さんも観客の期待に応える名演でした。表情がさらに豊かになったというか、今まで以上に演技の幅の広さを感じました。
エースが浜田さんなら、盛隆二さんはなんだ? う〜ん、表現が難しいのですが、1つのポジションにすんなり収まらないタイプで、豪快にホームランをかっ飛ばしたかと思うと、次の打席はど真ん中のストレートを空振り三振!というような、ああ、そうそう、長嶋茂雄だな(笑)。まさに役者。ちなみに今日はミスターレディでした(笑)。
岩本幸子さんは劇団を包み込むお母さんのような人で、そんなこと言ったら「冗談じゃないわよ。まだまだ若いわよ!」って怒られるかもしれないけど、演じているからか、演じなくてもそうなのか、とにかく語りに妙な説得力があるんですね。今日演じていた矢口というのは胡散臭いヤツなんですけどね、岩本さんが演じるとなぜか成立してしまうという...... 役者ってスゴイね。
その胡散臭い矢口をCチームで演じていたのが森下創さんなのですが、こちらはそのまんま胡散臭かったです。はい(笑)。でも、このキーで歌えるというか、このキーで演じられるのが森下さんの強みで、他の俳優がヒットにこだわるところをうまいことバントで駒を進めるという小技が使えるんですね。今日もそのバントが絶妙でした。
※ 残念ながら《Dチーム》の緒方健児さんと加茂杏子さんは観れませんでした。観劇された方!感想をお聞かせください!!!
どうです? この感想おかしいでしょ。演劇の感想でこれほど役者に特化した感想ってなかなか聞かないでしょ。役者について書こうと思えばいくらでも書けるんです。でも、なかなかそういう作品がない。これ如何に?
感想のなかでもふれていますが、役者にはいろんなタイプがいます。野球に例えれば、松井のようなホームランバッターがいて、イチローのようなヒットメーカーがいて、川相のようなバントがうまい選手がいて、赤星のような俊足の選手がいてというように、劇団も様々な個性を持った役者が集まって1つのチームができています。
おそらくどの劇団もこのことを自覚していると思います。しかし、そういった役者の個性を見抜いて育成していくシステムがとれている劇団はなかなかありません。それぞれの劇団の方針もあるでしょうし、なによりも運営上そこまで手が回らないというのが実情ではないでしょうか。
例えば、僕が好きでよく観ている劇団に平田オリザさんが率いる青年団があります。作品の質、俳優の質、運営面、いろんな角度からみても高く評価できるすばらしい劇団です。ただ1つ言えば、俳優のポテンシャルを充分に引き出せてないという不満を感じます。
青年団は平田オリザさんの戯曲を上演することを目的とした劇団なので、特定の俳優にスポットライトを当てるような作品は作りません。平田さんの求める演技を、あるいは多田淳之介さんや松井周さんが求める演技を演じ切るのが俳優の仕事です。ただ昨年から、二人芝居がいくつか上演されて山内健司さんと兵藤久美さんの『昏睡』、端田新菜さんと多田淳之介さんの『F』をみて改めて青年団俳優部のレベルの高さ、ポテンシャルを感じました。「えっ、こんなことができるの!」あるいは「ふだんは力をセーブしてるの?」とさえ思いました。他にも気になっている俳優がいて、例えば山本雅幸さん、工藤倫子さん、山本裕子さん。こういった俳優の個性をとことん引き伸ばすような作品を作ってみてもいいんじゃないか。そういったチャンスは俳優にとっても必要だろうし、観客としても観てみたい。このあたりは劇団の運営方針として難しいのかもしれないけれど、うまくやればホームラン50本打つ実力があるのに、25本止まりで役者人生を終えてしまうという気がして残念でなりません。
今日はイキウメ制作部の中島隆裕さんと話す機会があったのですが、イキウメは俳優主体のこの公演を明確な意図を持ってやっているんですね。今日のような公演で俳優個々の能力を引き伸ばしつつ、本公演での作品の質を高め、また幅を広げていく。だから前回の『見えざるモノの生き残り』で、それまでほとんど記憶に残らなかった窪田道聡さんがググッと力を伸ばして出てきたり、きょうの伊勢佳世さんを観ると次の公演がいよいよ楽しみになってくるというダイナミズムが劇団内に生まれてくるのです。
いろんな意味で興味深い公演なので観劇をオススメします。ぜひ!
イキウメふたり会『二人の高利貸しの21世紀』
日程:2010年2月16日〜28日
場所:明大前・キッドアイラック・アートホール
※ photo by montrez moi les photos
イキウメ特集《秋→冬の演劇フェア》
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会場:ジュンク堂書店新宿店(7F東側フェア棚)
会期:〜2010年2月28日まで
《過去のイキウメ公演の感想文》
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